先日Japan.R 2016に大学時代の先輩*1を案内がてら参加したんですが、休憩時間に技術評論社のTさんがご恵贈くださったのがこちらの本。
- 作者: 五木田和也,青木健太郎
- 出版社/メーカー: 技術評論社
- 発売日: 2016/09/27
- メディア: 単行本
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著者は以前下記の過去記事でも筆頭にご紹介した@kazoo04さん。
で、その内容なんですが基本的には初心者向けということもあり、なおかつ僕自身は@kazoo04さんと同じく機械学習と神経科学双方の知識がある*2ということもあり、僕が書評すると「玄人が素人向けテキストを読んで明後日の方向の論評をする」状態になる恐れがあるかなと思いましたので、あえて機械学習も人工知能も全くのド素人のうちの嫁さんに読んでもらいました。その嫁さんからのコメントをもとに、僕自身の感想も交えて書評させていただこうかと思います。
嫁さんのコメント
地の文で書くと長々しくなるので、まとめて箇条書きにしておきます。
総論
- 全体的に非常に読みやすい本だと思った
- 急いでいる人は4章だけ最初に読めば十分(人工知能とは何か?については4章によくまとめられている)
- 一方で特化型AIと汎用AIなどの挿入イラストは要らなかったかも
- どの層をターゲットにするかが難しそうな本だと思った(知識のある人には簡単過ぎるし、知識の全くない人には脳の話などもあって難し過ぎるかも)
加えて嫁さんの曰くは「あまり引っかかるところだらけということなく、スラスラと読める本だった」「この本を読んでダンナがslideshareに書いているようなことが何を表しているのか大体分かるようになった」だそうです(笑)。
個人的な感想
もちろん既にこの本で語られている知識の大半を持っていて、同時に問題意識もある程度共有しているという前提があることを予めお断りした上での感想ですが、一言で言って「平易でとにかく分かりやすい」本だと思いました。
特に以前の記事でも言及したことのある「弱いAI vs. 強いAI」という対立構図を、「特化型AI vs. 汎用AI」というある程度前提知識のない読者でも想像のつきやすい言葉に置き換えることで分かりやすくしている点が良かったです。ここで「今世の中で流行っているのは『特化型』なんですよ*3、何にでも使える(それこそドラえもんのような)『汎用』は難しいんですよ」と強調しておくことで、読者の過剰な期待感にブレーキをかけるという効果があるのだと思います。
この本の副題が「本当の人工知能の実現に機械学習アルゴリズムはどこまで近づいているのか!?」となっていることもあり、この本の最も肝要な部分は4章での機械学習各論の説明だと思うんですが、ここも確かに分かりやすく書かれているなと感じました。例えば教師あり学習・教師なし学習・強化学習の違いについての説明は丁寧な上に例示が多くて読みやすかったです。特に汎化能力のところで「過去問をちゃんと解ける=学習データがきちん学習されている」「試験本番で点数が取れる=汎化能力が高い」という対比説明がされているのはなかなか巧みだなと思います(笑)。その意味ではこの4章単体で、非常に分かりやすく平易な機械学習の解説資料にもなっていると言えそうです。
あえて言えば、NNの説明に手間がかかりすぎて(もちろん逆伝播とか色々盛り込んだからなのでしょうが)Deep Learningの説明にたどり着く頃には読者が飽きてしまっているのでは?という感じの展開になっているところが若干惜しかった点でしょうか*4。それでも僕が読む限りではDeep Learningの説明もきちんとされていますし、飽きずに最後まで読めれば全部理解できるような平易な内容です。
5章は最近の汎用人工知能を想定した研究動向を、6章はいわゆる「シンギュラリティ論」に絡む諸論を扱っているパートで、若干色々論理が飛躍しているように見える箇所もありますが*5、基本的には既出の論点をできるだけ多く盛り込んでまとめた内容なのかなと僕には読めました。その意味でも、現状の「人工知能と社会の関係」について把握する上では良い資料になっていると感じます。
いずれにせよ、「人工知能に興味はあるけれども知識はゼロ」という人が読むには非常に良い入門書であろう、というのが全体を通じての僕の感想です。ただ、そういう読者にとっての最大の関門はひたすら脳そのものの話題が続く3章かもしれません(汗)。既に2刷に到達しているというお話ですので、これからもこういう良い入門書が広まって少しでも「人工知能」そして「機械学習」に関する理解が広まると良いなぁと思います。