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六本木で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「銀座で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木

Web系サービス運営でKPIを決める時に気を付けるべき3つのポイント

ビジネス アナリティクス データ分析

そろそろ新職場にも慣れてきましたよ、ということでちょっと与太話でも。少し前のTokyoWebminingでも話題になっていた、「KPIの決め方」についてです。


ところで、現場によってはKPIが何故か売上高とか営業利益とか「目標そのもの」になってしまっているケースがあると聞くんですが、そういう方には『「KPI」=「目標」だと勘違いしていませんか?|中野康之のソーシャルメディア運営で「ビジネスを加速」させるブログ』を一読されることをお薦めします。

売上や利益など、


対外的に提示する一般的な指標を「目標」とするのに対し、


内向きの行動に繋がる具体的な指標が「KPI」です。


ものすごーく当たり前のことだと思うんですが、一昔前の体育会系営業みたいな「とにかく毎日の売上高にしか興味がない」というやり方*1でいくと、Web系サービスのような施策介入できる余地が限られている業界*2ではどんどん手詰まりになってしまうので注意が必要です。


出来る限り大局的トレンドを良く反映する指標であること


以前の人気記事「毎日の数字を追いかけ、毎日改善する」ことの意外な落とし穴でも書きましたが、基本的に局所的トレンドが上下にふらつくのを何も考えずに漫然と追い掛けてしまったらアウトです。うっかりすると、全ての努力が水の泡と消えます*3


基本的に、何かしらの組織の経営状態であったり経営に関連する指標というのは、もっともっと大局的なトレンドを描いてゆらぐものです。にもかかわらず、毎日グニャグニャせわしくなく上下動する数値をKPIとして選ぶのは、センスがないと言われても仕方ないんじゃないでしょうか?


5月のTokyoWebminingでも話題になった「DAUを評価指標から捨てた会社の話」のスライドでも述べられていますが、DAUのような日間変動要因の多い指標は得てしてホワイトノイズ*4が乗ったりスパイクノイズ*5を食らったりします。こういう指標こそまさに「平均への回帰」「見せかけの回帰」を誘いやすい代表みたいなもので、こういうものを選ぶのは良くないですね。


株価の世界に25日線があるように、Web系サービスのKPIも同様の大局的トレンドを表すものが良いでしょう。上記スライドでも引用されていた「5日間連続ログインUU」は名案だと僕も思います。「○○間連続ログイン」「ヘビー利用」的な、運営側が関心を持っているユーザー層の多数派集団の動向を示す指標は良いKPIになるのではないでしょうか*6


「どうすれば施策で改善or介入できるか分かる」指標であること


やはり5月に話題になった記事「Lean Analytics: KPIにしてはいけない8つの指標」にこんなことが書かれています。

追うべきでない(Vanityな)指標は、(数値の大きさから)楽しい気分にさせてくれる。しかし、あなたがどのように行動したらいいのかは教えてくれない。


追うべき(actionableな)指標は、進むべき方向を指し示してくれる。


この"actionability"という概念、意外ときちんと意識されていることは少ないようです。僕個人としては、Web系サービスのKPIを考える際には"actionability"(行動可能性)と同時に"controlability"(コントロール可能性)を重視するようにしています。


例えば、ヘビー利用UU数がKPIとして有用であることは前段で論じた通りです。けれども、ヘビーUUの定義となる「ログイン頻度」は一般にコントロールできない指標として知られています。誰でもすぐ分かると思いますが、「使いやすくて面白くて中毒性があるから毎日ログインしてくれる」ものであって、プッシュ通知を飛ばしまくればみんなが毎日ログインしてくれるというものではありません。うっかりすると、ウザがられてアプリを削除されてしまうかも。。。*7


ところで話を戻すと、上記記事ではKPIにしてはいけない指標として以下の8つを挙げています。

  • ヒット数
  • PV数
  • 訪問者数
  • ユニークビジター数
  • フォロワー数/フレンド数/like数
  • 滞在時間
  • 集めたメールアドレス数
  • ダウンロード数


その理由については上記記事の続きに詳しく書いてありますが、要はこれらの数値を見ているだけでは何をどう行動して働きかけていけば良いかが分からないんですね。で、逆に選ぶべき数値を決めるスタンダードとしては

  • 理解しやすいこと
  • 比較できること
  • 比率や割合であること
  • 行動を変えてくれること


「比率や割合であること」はかなり重要です。よくある「課金UU率」なんかを想像してもらえれば分かると思いますが*8、一般に(分母がある程度大きくかつほぼ一定であれば)「○○率」はゆっくり変動するものです。もちろん、その中には経営状態の大局的トレンドに相関もしくは先行しながら動くものもあるでしょう。


ちなみに僕が得意とする計量時系列分析の世界でも、「○○率」は見せかけの回帰にはまりにくかったり数理モデル的に扱いやすかったりするので、よく使われています。


あまりKPIの種類を増やさず、定期的に棚卸しすること


現場によっては、KPIが何故か20個とか30個(うっかりすると50個)ぐらいあったりして、それぞれのまとめシート作ってるだけでもう手いっぱい*9なんてことも。。。これでは本末転倒ですよね。


認知心理学の古典的な学説として「Millerの7±2チャンク」というものがあります。要は「人間は一度に7±2個のものまでしか同時に処理できない」という説なんですが、なかなかに説得力があると思います。これに倣って、例えば「KPIは7個まで」とか決めた方が良いかもしれないですね。


また、当たり前ですが価値あるKPIは個々のWeb系サービスの経営フェーズによって変わります。リリース直後、固定UU増加期、課金額増大期。。。その時々によって、運営側が神経を使うべきポイントは変わるわけで、ならばKPIの種類も変わらないわけがありません。


定期的にKPIの棚卸しを行うことで、「今必要なKPI」を常に追えるようにしておくことが大切だと思う次第です。


最後に


DAUを評価指標から捨てた会社の話」のところてんさんも最後に書いてますが、「自分の頭で考えないのであればKPIは無意味」まさにその通りだと思います。


例えば、課金UU率をKPIに据えて、しばらくその他の数値と併せて追ってみたら「DAUは着実に伸びているのに課金UU率が下がっている」となった時に、ただがむしゃらに課金UUを増やそうとあの手この手で*10無計画に頑張るのはあまり賢いやり方とは言えないでしょう。そこで冷静に課金UU「率」ではなく課金UU自体の内訳を精査して、もしこれが「DAUがどれだけ増えても課金UUのリスト自体が全く変わってない」とかであれば、彼らにアプローチするのではなく未課金UUへのアプローチを重視すべきだ、という結論になるはずです。


KPIとは、目標を達成するために、その「プロセス」の良し悪しをチェックするための、中間指標に過ぎません。大事なことはKPI「だけ」を引き上げるような小細工を打つのではなく、改善施策を打った結果としてKPIが伸びていくことなのだと思ってます。

*1:全力で「平均への回帰」「見せかけの回帰」にハマりに行くパターン

*2:想像以上にWeb系で投入できる施策って種類が限られるんですよね

*3:「平均への回帰」「見せかけの回帰」にハマり続けて、そのままそのサービス自体の存続が危うい状況にまで追い込まれたりして。。。

*4:そもそも経済現象なので色々なばらつきが乗る

*5:自分たちの側のアクションに由来しているのならまだしも、何か偶発的にバズった結果だったりすると厄介

*6:というかそれ以外にKPIってあり得ないような気も

*7:SPAM扱いされるというものほど怖いことはない

*8:ただし課金UU率自体はそれほど良いKPIとは言えない

*9:マーケの現場あるある、らしいです。。。

*10:例えばフリープレイ権をばらまくとか