何かすっかりRと計量時系列分析の話と書評とデータサイエンティスト論以外何も書かないブログになりつつある昨今ですが(笑)、たまたま職場の図書コーナーに置いてあるのを見つけたので懲りずにまた書評を書いてみようと思います。このムック本です。
- 作者: 日経情報ストラテジー
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2013/06/25
- メディア: ムック
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ちなみに今頃書評を書く理由は簡単で、自分で買う気にはなれなかったものの、図書コーナーに置いてあるのを見てたまたまザッと読んでみたから、ただそれだけです(笑)。発売された当時、渋谷を中心としたデータ分析コミュニティの間で色々と物議を醸したのを思い出しますな。。。
ざっくり内容紹介
章立てとしては6つに分かれています。
- Part 1 知られざるデータサイエンティストの仕事
- Part 2 スタバ、アマゾン…「称賛される会社」のデータ活用最前線
- Part 3 データ重視で勝機を見いだす12社
- Part 4 ビフォー・アフター! データ予測の威力
- Part 5 CIOがデータサイエンティストに熱視線
- Part 6 経営トップインタビュー 高まるデータ分析への期待
大体どの章もほぼ同じような内容しか書いてないんですが(笑)*1、強いて言えばPart 1が人材論、Part 2-4がデータ分析体制論、Part 5-6は各社の偉い皆さんへのインタビュー内容と言う感じに分かれています。
もうちょっと細かく概観すると、Part 1では各社でどのようにデータ分析部門を作り、そこにどういう人材を配置していったかという話が語られています。この出版社系列のweb記事頻出の、あそこの会社のあのセンターの話も出てきます(笑)。
Part 2-4では各社でどのようなデータ分析プロジェクトを行っているかが紹介されていて、KPIをどう定めたかとか、それらをどう現場のビジネスに反映させていくか、と言った事例が出てきます。Part 5-6は要するにインタビューです(笑)。
ということで、僭越ながら僕の評価を
相変わらず偉そうに評価なんて上から目線ですいません。と予め断った上でズバリ書くと、
内容:★★☆☆☆
オススメ度:★☆☆☆☆
出版社様には大変申し訳ないですが、辛口に評価させていただきました。全体としての結論を一言でまとめると「これはデータ分析組織論の本であって、データサイエンティストについての本ではない」です。以下にその理由を書いていきます。
出てくるのは経営者やディレクター・マネージャー層ばかりで、実際に現場で働いているデータサイエンティストがほとんど出てこない
強いて挙げれば「これからデータサイエンティストを雇ってデータ分析体制を作ってみたいけど前提知識をまだ持ち合わせていない経営者」に読ませたい本なんだろうなー、と思いました。
理由は簡単で、「どういうデータ分析組織を作ったか?」「そのデータ分析組織は何をしたか?」という話ばかりだからです。どこにも「データサイエンティストになりたい人」向けの記事はありませんし、そもそも個々のデータサイエンティストをフィーチャーした記事もありません。いや、「10人のデータサイエンティストに聞く」というコーナーはあるんですが、社長が出てくるのはおかしいですよね?(笑)
ぶっちゃけ、現場で働くプレイヤーとしてのデータサイエンティスト*2が登場するのはPart 1の中ほどだけだと思います。そこ以外に、データサイエンティスト個々人のストーリーは出てきません。
一方で、さすがと言うか頻繁に出てくるのがITベンダーの商品名の数々の名前。いやー、どれも高いんですよねー。だったら全部RとかPythonとかでもいいし、何ならRRE何とか*3でもいいじゃんとか思うんですが。。。
「結局データサイエンティストは何者なのか?」に答えていない
多分これに答えているのは巻頭のディミトリ・マークス氏のインタビュー記事だけで、残りは「データサイエンティストを使って何をどうやっていけば良いか」という話に終始しています。
せめてデータサイエンティストのスキル要件とか取り上げるのならまだしも、そこに出てくる言葉は「データ分析能力」とか「ビジネススキル」とか「着眼」とか、イメージが曖昧なものばかりが踊っているだけ。これでは人物像の描きようもないと思います。
実際、目次の見出しのどこを見ても「データサイエンティストとは何者か?」的な文言がどこにも見当たりません。『完全ガイド』とうたっている割に、そこを追求した箇所がないというのはどういうことなのかよく分からないです。
本来「いわゆるデータサイエンティスト」の多いインターネット関連サービス系企業がほとんど取り上げられていない
普通、データサイエンティストがいる企業と言った場合に多くの人が連想するのは、Google, Microsoft, Facebook, Yahoo!, Twitterといったインターネット関連サービス系グローバル企業であったり、Amazon, 楽天、リクルート*4のようなeコマース・広告系企業であったり、はたまたDeNA, GREE, mixi, サイバーエージェント*5といったソーシャルサービス系企業であったり、gloops, CROOZ, ドリコムといったソシャゲ企業だと思うんですが。
実際、これらの企業はほとんど創業当時から膨大なデータを集めては活用し続けており、ぶっちゃけデータ分析のナレッジという点では莫大な蓄積があります。特に渋谷系企業各社は、OSSコミュニティへの貢献も兼ねて多くのデータ分析に関する情報発信を行っているところが多いです。
にもかかわらず、この本にはこれらの企業がほとんど登場しません。辛うじてAmazonと楽天が出ているだけで、残りは伝統的大企業ばかり。むしろ、これらの大企業もデータ分析をやっていますよ!と一生懸命宣伝しているのかな?とも僕は感じてしまいました。
どうせなら、TokyoWebminingとかTokyoRとか、はたまたインターネット関連サービス系企業からデータサイエンティストが多数参加している*6講演会・勉強会に取材に行けば良かったのでは?とも思いますが。。。そんな素人の勝手連を取材しても仕方ないですか、そうですか。
データ分析の「事例集」として読めばそれなりに意義があるかも
クソミソに書いてばっかりではあんまりなので、一つだけ良かった点も挙げておきます。それは、インタビュー中心の構成であることも手伝って、「事例集」の形になっているところです。
以前のブログ記事でも指摘しましたが、データサイエンティストの要件・スキルを定義して人物像を決め打ちにしようというのははっきり言って無駄な努力だと僕は考えています。むしろ必要なのは、どんどん蓄積されていく膨大な「事例集」であるべきと。
その点では、個々のデータサイエンティストにフォーカスしているわけではないので色々かゆいところに手が届かない感がありますが、各社のデータ分析現場の「事例集」として読めるとは思いました。これは以前TokyoR常連を中心としたデータサイエンティスト軍団で集まった時にも、この本について出た評です。
よって、「事例集として読むなら意味がある」ということで内容には星2つ付けました。でもそれで他の人にお薦めしたいというところまではいかないかなぁ。。。
まとめ
端的に言えば、脈絡のないインタビュー記事の羅列ばっかりで書き手の側の意思が感じられない作りの本であるという印象が否めませんでした。はっきり言ってバズワードをさらに無軌道にバズらせているだけの本になっている感があります。
個人的には、冒頭のディミトリ・マークス氏のインタビューだけが印象に残りました。さすがにデータ分析コミュニティの間でも名著と評価の高い『データサイエンティストに学ぶ「分析力」』の著者だけあると思います。とは言え、それならその彼の著書を読んだ方が良いわけで(笑)。
残念ながら、こういう「ただ何となくインタビューしたり調べた内容をまとめただけの本」は、データ分析業界が既に「データサイエンティストを採用したら具体的にどんな仕事をどのようにやらせるべきか?」みたいなフェーズに入りつつある現状では、もはや誰の役にも立たないと思います。実際、Amazonのレビューもクソミソに書かれているので。。。そう言えば同じところが先日出していたweb記事もひどかったなぁと。。。
この本に倣ったかのような中身のない薄っぺらいムック本が続々と出ている模様なので、失礼を承知であえて酷評させてもらいました。今後出てくるデータサイエンティスト関連書籍には、もっとちゃんと実態を踏まえて取材し、実務者もcontributeしたものが増えることを期待したいと思います。