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六本木で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「銀座で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木

『ビッグデータの使い方・活かし方』はビジネスの現場におけるビッグデータの実像を知るのにベストの一冊

思いがけず、ALBERT様からこちらの本をご恵贈たまわりました*1


ビッグデータの使い方・活かし方―マーケティングにおける活用事例

ビッグデータの使い方・活かし方―マーケティングにおける活用事例



いわゆる「ビッグデータ」関連の取り組みを、単なるファッションとしてではなく実際にビジネスの現場で展開させている企業の第一人者の方々が、オムニバス形式で各トピックを解説している本です。ALBERT様からも、山川義介会長ご自身が第1章を寄稿していらっしゃいます。


こんな僕にわざわざご恵贈いただいたということは、もちろん「書評を書け」ということだろうと理解しましたので(笑)、僭越ながらざっくり書かせていただくことにしました。ということで、もし僕の書評のせいでこの本が売れなかったら。。。。。。いや僕の責任です(汗)。


ざっくり内容紹介


正直言って、非常に充実した内容の章ばかりでどれも読み応えありというのが感想です。ただし事例集として編まれている感じがあるので、各論が多い点には注意が必要かもですね。


第1章 ビッグデータ時代のレコメンデーション


今やビッグデータの申し子とすら言える、レコメンダーシステムの考え方とそのアルゴリズム、そしてその運用方法(例えばクラスタリングと併用するなど)について概説した章。ここではそのアルゴリズムとしてアソシエーション分析(association rules)についての詳しい解説と、その応用について述べられています。ちなみに、本書をご恵贈下さったALBERT社の山川義介会長が執筆を担当なさっています。


第2章 コミュニティ・リサーチによるビジネス共創


オンライン上のコミュニティにブランドや特定のテーマに関心の高い参加者を集めて、製品開発やコミュニケーションプランのヒントを探る調査手法であるMROC (Market Research on Online Communities)について概観しています。


第3章 リサーチという経験のデザイン


マーケティングリサーチの世界では「いかにして従来以上に消費者の本音に迫れるようにリサーチをデザインすべきか」を追求するムーブメントが広まっているとのことで、これをゲーム理論の観点から進めていくアプローチについての紹介がなされています。


第4章 タブレット端末を用いた新たなシングルソースデータの構築

パネルリサーチでは最大手のビデオリサーチ社からの寄稿。従来のようなテレビ視聴測定やPCからのwebアクセスデータに依るシングルソースリサーチではなく、タブレット端末を用いることの利点について述べられています。


第5章 消費者発生型自由回答(口コミ)の解析


FacebookTwitterでの投稿・つぶやき・口コミの分析という集合知系では頻出のネタで、形態素解析やネットワーク分析といった古典的なアプローチに加えて、これらをビデオリサーチ社がテレビ視聴データと併せて分析した事例が紹介されています。


第6章 地域振興戦略のための旅行者ビッグデータの活用


リクルートライフ社による、異なる地域に居住する旅行者がそれぞれどのような地域への旅行を好むのか?を、コロプラのGPSデータとじゃらんnetの旅行先データを併せて分析した事例の紹介。これは非常に面白いです。


第7章 ビジネス・エスノグラフィーによるインサイト


調査パネルを少数にしぼる代わりに、網羅的に消費行動を調査することでターゲット層の細かな消費者心理を追求する、エスノグラフィーというアプローチについて概観した章です。


第8章 オンラインデータと調査データの融合


いわゆるビッグデータと言った場合に誰もが想起するようなwebアクションログに対するデータマイニングを補完する目的で、共通cookie IDのもと取得した別のアンケートデータとをマッチングさせてより深い分析を行おうという取り組みの紹介。


第9章 店頭プロモーションのマイクロ・マーケティング


POSデータと店頭プロモーションの状況の継続観察データという2つのデータを併せてデータマイニングを実施することで、店頭レベルでのマーケティングを定量的に実現していこうというアプローチを紹介しています。非常に実践的な内容で、個人的には大変興味深いと感じました。


第10章 マルチ・エージェント・ベースのシミュレーション


マルチエージェントモデル+ネットワークモデルの併せ技で、広告効果がどのように伝播し、購買行動につながっていくかをシミュレーションし、実測データと比較することで、どのようなチャネルが購買行動の促進に有効かを調べたという研究の報告に基づいた章です。これも大変面白かったです。



基本的に実事例ベースの章が多いのである程度マーケティングに関する前提知識があった方が良いと思いますが、単にビッグデータ関連の話題に興味があるというだけの人が読んでも結構面白いのではないかと感じました。


ということで、僭越ながら僕の評価を


偉そうに評価なんて言っちゃってすいません。と予め断った上でズバリ書くと、

  • 内容:★★★★☆
  • オススメ度:★★★★★


お薦めか?と言われたら、ビッグデータに興味がある人ならもちろん、ビジネスの現場でのデータ分析に関心のある人なら誰にでもお薦めできると思います。ただ、個人的に気になった点があるので、内容の評価は星1つだけ減じて4つとさせていただきました。以下に評価の理由を説明していきましょう。


実際のビッグデータ活用の現場で何が行われているかが、実事例をもとに分かりやすく説明されている


まさにビッグデータの醍醐味と言っても良い実事例が、多数紹介されているのが本書の最大の特徴だと思います。特に第1・5・6・8章は具体的なビッグデータの利活用例について細かに紹介されており、「何故ビッグデータに取り組むべきなのか」を雄弁に物語っていると言って良いでしょう。


ポイントとしては「高度なデータ分析手法を駆使した事例」と「あまり高度な手法を使わずデータの可視化などで成果を出した事例」がバランス良く混ざっているところかと。ゴリゴリ高度な分析手法に頼っても、割とシンプルなやり方に徹しても、ビッグデータのもと成果を挙げているということで誰にとっても参考になるんじゃないでしょうか。


いずれにせよ、巷に「びっぐでーた」「でーたさいえんてぃすと」について曖昧なイメージや憶測、はたまた単なる伝聞や空想などなどを、漫然と書き立てた内容の薄い本がゴマンと溢れている現状を考えると、本書だけが現時点で「ビッグデータ」の実像を捉えたベストの一冊であると言っても良いのではないかと思います。


ビッグデータ活用の現場で用いられる様々なデータマイニング手法の解説もなされていて興味深い


いわゆる「ビッグデータ関連の薄い本」ではあいまいなコンセプトばかりが語られるだけで、内部でどんなことをしているかといった話はほとんど出てこないのが常なのですが、本書ではそこで用いられるデータマイニング手法についても解説がなされていて興味深かったです。例えば第1・5・10章がそうですね。


個人的には、ALBERT山川会長によるレコメンデーションのアルゴリズムの解説が分かりやすいと思いました。基本的には多くのレコメンデーションで用いられるアソシエーション分析(association rules)アルゴリズム*2の解説なんですが、実はconfidence / support / liftの3つの指標について日本語で分かりやすく書かれた資料ってほとんどないので、大変貴重かと。これはお世辞でも何でもなく、僕にとってもこの章を読んだことであやふやだった3つの指標に関する理解が明確化できたという点で、大いに有難かったです。


ただし、章によってはビッグデータというよりもマーケティングの話になっていることも


一方で、ちょっと気になったのが「ビッグデータ」と本書のタイトルに銘打ってる割に、ビッグデータとは必ずしも関係しない「マーケティング」の話をしている章が結構あった点。まぁ、副題が『マーケティングにおける活用事例』なので当たり前っちゃ当たり前なんですが(笑)。とは言え、第一人者が実事例をもとに解説しているだけあっていずれも非常に読み応えがあります。


ということで決して本書の価値が下がるものではないと思うんですが、ビッグデータのことを知りたくて本書を手に取った読者には「?」と思われるかもしれません。もう少しだけ「ビッグデータ」であることにこだわっても良かったのかな?というのが個人的な意見です。それは以前大絶賛した『データサイエンティスト養成読本』に比べて星半分だけ評価が低くなった理由でもあります*3


最後に


完全に個人的な意見ですが、『ビッグデータとマーケティングの使い方・活かし方』というタイトルだったらしっくり来たかもですね(笑)。願わくば、本書と同じようなスタイルの実際のビジネスの現場における統計分析・機械学習の適用事例を集めた本が出てくれたら良いな~と思います。


ちなみに結果論ですが、実は酷評する気満々で臨んだものの、ご恵贈たまわった本を酷評することにならなくて良かったです(笑)。前回は自分で買って読んだ本だったんですが、ぶっちゃけ酷評する羽目になってビミョーでした。。。

*1:何故かはてなからのリンクではジャケット画像が表示されない。。。

*2:Rでもアソシエーション分析のパッケージである{arules}がレコメンデーションの実験レベル実装のパッケージである{recommenderlab}の依存パッケージになっています

*3:養成読本は「データサイエンティストになるために必要なこと」だけを厳選して載せていたという意味で高い一貫性があったので