今回の記事では、ちょっと感覚的でふわっとした話をしようと思います。それは「『仮説ドリブン』という考え方には往々にして落とし穴があるのではないか?」という問題提起です。
そもそも、「仮説ドリブン」(仮説駆動型:hypothesis-driven)というアプローチは実験科学分野出身の我が身にとっては、個人的には馴染み深いものです。まだ僕がポスドクだった頃、国際会議に際して日本人研究者同士で集まる会が毎回あったのですが、その席上でお話を聞く機会があった当時のトップ研究者の先生から「この世の森羅万象は網羅しようとするにはあまりにも広大過ぎる、故に森羅万象を区切って『仮説で白黒つけられる範囲』に絞り、これを検証するということを繰り返して前に進むべき」ということを聞かされ、感銘を受けたのを覚えています。
実際、仮説ドリブンの考え方は非常に有用なものであり、今現在僕自身が主戦場とする広告・マーケティング分野でも近年は広く援用されています。それこそA/Bテストのようにズバリ仮説検定の枠組みで効果検証を行うケースもあれば、もう少し緩やかに「〇〇という仮説をもとにして」調査分析を展開していくというケースもあり、日々の仕事でも「仮説」という単語を聞くことは多いです。
しかしその一方で、「仮説を定めてその真偽を検証する」という枠組みは「結果の分かりやすさ」という点では優れているものの、当たり前ながら「仮説を設けた範囲の外側のこと」が分からないという課題も抱えます。そこで、今回の記事では「仮説ドリブン」というアプローチが裏目に出るパターンを概念的に定義した上で、それが実務においてどのような表れ方をし得るかを考察してみようと思います。
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