お盆休みということで僕も今週はずっとお休みなのですが、こんな記事がWSJから出ていたと知りました。
以前HBRのDavenport論説についてコメントしたかと思いますが、あれから2年経ってどうなったのかがこのWSJの記事からは読み取れる感じがします。ということで、ちょっと読み解いてみましょう。
今でも本場USではPh.D.を取得したscientistがData Scientistになっている
冒頭のパラグラフからして、既に日本と本場USとの違いが顕著に表れていると僕は思いました。
クリス・ファレルさん(28)は、天体物理学の博士号取得のため、5年間費やして巨大な粒子加速器から出たデータを掘り起こしていた。現在、彼は日々、イェルプのビジネスレビューサイト向けに評価を分析している。
ファレルさんはいわゆる「データサイエンティスト」だ。3年前にはほとんど存在しなかった職業上の肩書だが、その後、ハイテク関連の労働市場で最もホットな分野の一つになった。小売業者、銀行、重機メーカーから、マッチメーカー(縁を取り持つ斡旋業者)に至るまで、インターネット上でのクリックやスマートフォンなどからの莫大なデータを抽出して解釈する専門家を欲している。彼らを見つけて訓練するため飽くことなき求人競争が繰り広げられている。
7月にHackers Champlooで講演した際に「本場USではscientistがdataを分析するからData Scientistになってるんだ」という話をさせていただいたわけですが(下記)、この記事から見てもその状況はまだ変わってないようです。
HBRの長ったらしい論説に比べたらさすがにWSJの記事はコンパクトにまとめられてて読みやすいですね(笑)。記事中では次々と「別分野のPh.D.からData Scientistに転じた人々」の事例が紹介されてます。例えばYelpについては、
イェルプでは、別の28歳の応用数学の博士号保有者が、ゲノムマッピングに関する博士論文の研究成果を、同社の広告担当チームが使用する製品に仕立てた。同じゲノムマッピングのアルゴリズムが現在では、同社でオンライン広告に対する複数の小さな変更が消費者にどのような効果をもたらすかを計測するために使われている。
このゲノムマッピング・アルゴリズムを設計したスコット・クラーク氏は「学界は緩慢で、あなたの仕事を目にするのはほんの少数にすぎない」と述べた。同氏は「イェルプでは、何億人にも影響する実験を打ち出すことができる。イェルプのウェブサイトで小さな変更を加えると、さらに大きな影響が得られる」と語った。
という感じです。この「学界は緩慢で、あなたの仕事を目にするのはほんの少数にすぎない」「イェルプでは、何億人にも影響する実験を打ち出すことができる。イェルプのウェブサイトで小さな変更を加えると、さらに大きな影響が得られる」というメッセージは、なかなかに強烈だと思います。
もっとも、その直後に例のFBの「社会実験」で炎上した件についても触れられているのは仕方ありませんねーということで*1。社会における事業は人体実験ではないので、その辺はもちろん厳しくチェックされるべきだと個人的には思ってます。
とは言え、天体物理学、応用数学の他にも、生物統計学、認知心理学のPh.D.たちがData Scientistとして企業で活躍する具体例が挙げられており、scientistとしてのキャリアを積んだ人々がビジネスの世界でもその力を発揮している様子がいくつも紹介されているのはなかなかに印象的です。
そしてベイエリアのエンジニア並みに給料も高騰している
一方で、the sexiest job of the 21st centuryとかつて煽られた勢いそのままに、Data Scientistの給料もとんでもなく高騰している模様。そもそもUSではPh.D.の初任給が非常に高いので、ますます拍車がかかっている感がありあり。
前出のゴールドマン氏は現在、ソフトウェア開発会社インチュイットで新しいデータサイエンス・グループを率いている。同氏によれば、雇用主は最も才能ある人物を獲得するため、どんな苦労も惜しまないという。
博士課程終了直後の人々にとって初任給が年間6桁台(10万ドル以上=約1000万円以上)というのは普通かもしれないが、データサイエンティストはわずか2年間の経験で20万~30万ドル(約2000万~3000万円)稼げる、と求人担当者らは話す。
米コンサルティング会社、ブーズ・アレン・ハミルトン・ホールディングで500人からなるデータサイエンス・グループを率いるジョシュ・サリバン氏は、リンクトイン・ページ上で職業上の肩書が「データサイエンス」なら、「一日当たり100通の求人担当者からの電子メール」を受け取るだろうと述べた。
なおTwitter上では50万ドル(5000万円)の年俸がついた人もいるという海の向こうの噂話が出ていたのを見ておりまして。。。いやはやとんでもないですね。これに比べると、日本のデータ分析者はさすがにそれほどでもないかなぁという気が*2。
また、LinkedInでData Scientistと名乗っているからと言って1日に100通も首狩り族からメールが来るなんてことは、僕の場合はありませんw もちろん日本にいるから声がかかりにくいってことはあるんでしょうが。。。*3
だが現実にはData Scientistも買い手市場へと移行しつつあるらしい
ということでいいことずくめに見えるData Scientistですが、ご当地の現場では早くも買い手市場への移行が見えつつあるようで。こんなご指摘を拝見しました。
日本での状況はともかく、米国などでは企業におけるデータサイエンティストが買い手市場に変わり淘汰が始まっているのも、先ほどの温暖化の話と同じように、分析の枠組みはできても、向こう3ヶ月、1年、3〜5年といった行動計画に繋げることができないひとたちのお荷物感が広がっているということ。
— Kaoru Kakinuma (@kkakinuma) 2014, 8月 12
これは実際にある感じがなくもなくて、主に要件(requirement)のところが厳しくなってるのかなぁと。KDnuggetsの求人広告コーナーを見てると、以前よりもスキル要求が高度になってきている感がしなくもないので。その意味で言うと、ますますPh.D.を持ってなきゃダメ、さらに実務経験が最低でも5年ぐらいないとダメ、みたいな方向性に向かうのかなぁという気がします。
そういう点で言うと、もしかしたら本場USではData Scientistは徹底して「スーパーマン」を追求する流れになっているのかもしれないなぁと思ったのでした。となると、色々大変だなぁとしか思えない感じもあり。。。現場からは以上です。