渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「六本木で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木→渋谷駅前

新型コロナウイルス不況でデータサイエンティスト・機械学習エンジニアは失業するのか

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(Image by Pixabay)

のっけから不穏なタイトルで恐縮ですが、個人的に新型コロナウイルスの感染拡大初期の頃から懸念していた事態が徐々に現実になる流れが見え隠れしており、自分自身の警戒も込めて記事にしてみました。関連資料の誤読・理解不足・認識の誤りなどあればご指摘ください。

UberのAI部門解散というニュースの衝撃


先日3700人を解雇すると発表したUberなのですが、最近さらに中核であるライドシェア事業を中心に3000人を解雇すると発表して波紋が広がっているようです(フードデリバリー事業は拡充するとのこと)。シェアリングエコノミー時代の寵児として業界を牽引してきたUberにとっても、新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う不況&経済構造の大変動は一つの転換の契機になりそうです。


ところが、その3000人の解雇対象にどうやら自動運転技術の研究開発を手掛けてきたAI部門も含まれ、AI部門ごと解散になるということでさらに大きな波紋が広がっている模様です。特にUberの自動運転技術と言えば数年前に実験中に不幸な交通事故が起きてニュースで広く報じられたことに加え、CMUから40人もの研究者を引き抜いたというニュースが世間を騒がせたこともあり、かなり知名度は高かったという印象があります。そんな看板部門があっさり潰れてしまったという今回の件について、僕が某所でこんなことを放言したら思いの外多くの反応がついてしまいました。


実際問題、データ分析業界の動向を仔細に観察していればこれはある意味容易に予測できた事態です。とは言え、Uberほどの規模のtech企業があっさりと看板のAI部門を放棄したということ自体が、ある意味tech業界そしてデータ分析業界にとってのコロナ禍を象徴する出来事であるようにも僕の目には映ります。


その他の企業及びデータ分析業界の雇用情勢について


redditには4月7日の時点で以下のような投稿があったようです。

I've been looking at this link sporadically tracking the layoffs happening at companies primarily geared towards tech. Seems like it's mostly startups right now that are going through a huge cut to the workforce while the bigger companies can weather the storm for now.

I was wondering if any data science teams were getting completely cut? Given that DS is not business critical, I would expect some companies to be completely gutting their teams. I heard Bird cut their data science team from 50 down to 5.

Has anyone else heard of/experienced this?

USでは4月初旬というとまだロックダウンが始まってそれほど経っていない時期だと思うのですが、この頃から既にこのような警戒感が当地のデータ分析業界にはあったのかなという印象があります。


ちなみにredditに書かれている「Birdがデータサイエンティストのチームを50人からレイオフして5人にまで減らした」という話は、この記事を読む限りではそれなりの信憑性があるようです。

Layoffs TrackerによればBirdはこの記事の執筆時点で406名をレイオフしており、そのうち45名がデータサイエンティストだったとするとレイオフ対象者全体の1割以上を占めていたことになり、これは相当に深刻な話であるように思えます。


また、このブログでも時々ネタ元にしているTowards Data Scienceでも、データサイエンティストの卵を養成して各企業に送り込むビジネスをしている人物による4月14日付記事の中で「job offerが取り下げられた」「我が社の卒業生も3%ながらレイオフされた」という話がされており、やはり当地における影響は4月中旬までの時点でも出ていたことがうかがえます。


新型コロナウイルス禍で「余興」としてのデータサイエンスやAI研究開発を続ける余裕が失われていく?


既に見たように、redditの投稿の中で"Given that DS is not business critical, I would expect some companies to be completely gutting their teams"(データサイエンスがビジネスにとって重要でないことを考えると、企業の中にはDS部門を完全にお取り潰しにするところが出てきそうだ)というコメントがされています。この点について、2年前の記事でこんなことを書いたのを思い出します。

これまでのところ「人工知能」「AI」という言葉は良くも悪くも「一般世間受けの良い言葉」であり、技術系メディアのみならず一般メディアはもちろんのこと娯楽向けコンテンツや人工知能とは何の関係もないような新製品の説明書きにまで溢れるようになっており、言い換えると「バズワードとして消費され尽くしている」状態のようにも見えます。


一方で、バズワードとして消費される勢いに比べると「実際の人工知能」が社会そして市場に浸透する勢いは鈍いままです。そこには研究者・技術者が不足しているという側面もあるかもしれませんが、同じくらい「『人工知能』を導入する側が実態を理解しないまま無理やり導入を図って失敗する」という事態がそこかしこで相次ぎ、ある種の失望を招いている部分もあるように見受けられます。


その意味で言うと、まさにガートナーのハイプ・サイクルで言われている通りの「技術は過度な期待に応えられず急速に関心が失われ、『幻滅のくぼ地』に入る。そしてメディアはその話題や技術を取り上げなくなる」という幻滅期に「人工知能」は近付きつつあるというか、ところによっては既に突入しているのではないかと考えられます。実際「人工知能導入」を目標に掲げたチームを鳴り物入りで作ったものの、うまくいかずに解散したという企業の噂もぽつぽつ出てきており、難しいなと思う次第です。

悪い言い方をすると「バズワード化したブームに乗って遮二無二専門家を集めてチームを作る」という事態が昨今の空前の人工知能ブームにおいて洋の東西を問わずあちこちの企業で起きており、うっかりするとIRに「人工知能研究に注力する」と大書して株主にアピールするなんて企業まで現れるという有様だったのです。


というような人工知能ブームの負の側面はこれまで色々と憚りがあって*1あまり公言してこなかったのですが、割と伝聞の範囲でも顰蹙するような事例を聞くことがあったのも事実です。例えば、しばらく前に「社長室直属の最精鋭R&D部門を作る」という触れ込みで何人ものデータサイエンティストや機械学習エンジニアを採用したものの、いつの間にか「あんなのは研究の真似事だけさせて会社に箔をつけさせるためだけの部門だ」と大っぴらに陰口を叩かれるようになり、ついには担当役員の退職と共に部門ごと消滅した、なんて話も聞いたことがありました。


そこまで露骨でないにせよ、会社としては「AI研究開発部門を作りました!データサイエンス部門を作りました!優秀な専門家を沢山集めています!」と喧伝しておきながら、他の本業部門の幹部や中堅からは「いやあそこは会社上層部の趣味みたいなところなので」と言われてしまう、みたいな事例は一つ二つに限らず噂で耳にしたものです。


端的に言えば、AI部門やデータサイエンス部門をただの「余興」「趣味」はたまた「箔付け」「株価対策」のために、本業とは関係のない研究開発活動のために作ったという企業は割と珍しくなくて、それでも企業である以上は事業に貢献してもらうべく色々手を打ってきたものの、それがうまくいかなくて未だに「余興」の域を脱し得ていない、というところは恐らく想像しているよりは多いのかもしれません。


実は、2013年頃の第一次データサイエンティストブームの後は似たような経緯で潰れたデータサイエンス部門の話をチラホラ聞いたものですが、その頃は「単にバブルが弾けただけ」と思っていました。ところが、2016年以降未だに続く人工知能ブームの真っ只中でもそういう「AI・データサイエンス部門お取り潰し」の話が出るところを見ると、これはもしかしたら普遍的な問題なのでは?という気がしています。そこに降ってきたのが、新型コロナウイルス不況の影響によるUberの大規模解雇&AI部門解散というニュースだったのです。


結局のところは「本業」「好景気」なprofit center部門に行くべき?


これは僕個人の伝聞なので確たることは言いにくいのですが、例えば今回話題になった大規模解雇に打って出たUberもロックダウン下で絶好調のUber Eatsに関連するポジションはデータ分析職を含めて最近まで採用していたようです。上のリンクはInternet ArchiveによるUber採用ページの2月22日のスナップショットですが、これくらいの時期までは求人活動が行われていたのでしょう(現在は採用凍結中)。


また、上の方で引き合いに出したredditの投稿に対するコメントの中でもbiotechというflairをつけたユーザーが"I work for a very large company, and we are still hiring people"と言っているところを見ると、やはり新型コロナウイルス禍で貢献が期待されるバイオ系などの業界では不況下でも採用が続けられているのかなという印象があります。


これらの事情を踏まえると、やはりデータサイエンティストや機械学習エンジニアは「本業」部門で「好景気」なところに身を置くべき、という話になるのかもしれません。言い方を変えるとやはりprofit centerで働く方が、cost centerで働くよりはjob securityという点では有利だ、ということです。考えてみれば当たり前の話で、自社の売り上げ・利益を支える「本業」すなわち中核事業で尚且つ「好景気」なところで働くならデータサイエンティストだろうと機械学習エンジニアだろうと何でも良い、というのが普通の経営者の考えることでしょう。これが自社の売り上げ・利益と無関係or貢献しないor足を引っ張ってすらいる部門であれば、コロナ不況が来たらバッサリ切られても不思議はないわけです。


個人的には、AI開発やデータサイエンス業務というのは一種の「投資」だと考えていて、長期的な観点から将来の自社事業や業界発展を期待して取り組むものであるべきだと思う次第です。しかしながら、不況でそのランニングコストが逼迫する事態になれば、切られる可能性を否定することはできません。その危惧が、コロナ不況というと不測の事態でいきなり現実になりかけている。。。というのが現在の状況だと思います。


正直言って、これに対する処方箋が業界レベルでも個々人レベルでも存在するとは思えません。ただ、サバイバルのためにはこういう視点を持ちながら、この先1年とか2〜3年といったスパンで続くとされるコロナ不況の時代を生き抜いていかなければならないのかな、と考えています。

*1:ネガティブなことを言って現実になるのも嫌だなぁという言霊信仰的な