渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「六本木で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木→渋谷駅前

どのような場面で多重比較補正が必要なのか

先日のことですが、Querie*1で以下のような質疑がありました。恐らくですが、これは僕が懇意にさせていただいているマクリン謙一郎さんがコメントしていた件に関連する話題だと思われます。たしかにこれではないからHARKingとはちょっと違うと思うんだけど、…

ビジネスの実務で「因果」を推測するということ

統計的因果推論と言えばすっかり統計学分野ではお馴染みのアプローチになった感があり、また機械学習分野でも扱うテーマが複雑化するにつれて注目が高まり続けているトピックスという印象があります。 このブログでも2016年ぐらいから因果推論に関する記事を…

2024年版:独断と偏見で選ぶ、データ分析職の方々にお薦めしたいホットトピックス&定番の書籍リスト

毎年四の五の言いながら書いている推薦書籍リスト記事ですが、何だかんだで今年も書くことにしました。なお昨年度版の記事を上にリンクしておきましたので、以前のバージョンを読まれたい方はそちらをお読みください。 今回のバージョンでは、趣向をちょっと…

「入試に数学を課さないデータサイエンス学部」は是か非か

最近の話ですが、以下のようなニュースが話題になっているのを見かけました。 データサイエンス系の学部は文理融合の学びを掲げ、文系の受験生も集めるため、受験科目に「数学」を含まない入試方式を設ける大学も少なくない。河合塾によると、私立大のデータ…

ヒトだからこそ価値を出せる余地は、AIやデータサイエンスの「外側」の本質への関わり方にある

恒例の年末振り返り記事ですが、もうタイトルが示す通りです。例年通りであれば淡々と1年間の業界動向や個人的な学び、はたまたちょっとした私事などを綴るのですが、今年はたまたま良いお題がやってきたのでまず最初にその話を書こうと思います。

「仮説ドリブン」という名の甘い罠

今回の記事では、ちょっと感覚的でふわっとした話をしようと思います。それは「『仮説ドリブン』という考え方には往々にして落とし穴があるのではないか?」という問題提起です。 そもそも、「仮説ドリブン」(仮説駆動型:hypothesis-driven)というアプロ…

CausalImpactは実装によって中身に重大な差異がある

CausalImpactについては、過去にこのブログでも何度か話題にしてきたかと思います。端的に言えば、seasonalityによるバイアスを補正するための実験計画であるDID(Difference in Differences:差分の差分法)によって得られたtest/controlグループの時系列デ…

データセットの本質的な性質を踏まえないデータ分析には、大抵何の意味もない

前回のブログ記事は、論文紹介という地味なテーマだったにしてはだいぶ話題を呼んだ*1ようで、個人的にはちょっと意外な感があったのでした。確かに、今をときめくTransformerにも苦手なものがあるという指摘は、NN一強の現代にあってはセンセーショナルなも…

「機械学習で時系列予測はできるのか」論議がTransformerと共に帰ってきた

先日、こちらのポストをお見かけしました。AI技術開発部の高橋が社内勉強会の資料「時系列予測にTransformerを使うのは有効か?」を公開しました。論文Are Transformers Effective for Time Series Forecastingの紹介を中心に、時系列予測について解説してい…

ビジネスにサイエンスを持ち込むということ

先日、『しっかり学ぶ数理最適化 モデルからアルゴリズムまで (KS情報科学専門書)』の梅谷先生がこんなポスト(ツイート)をされているのを拝見したのでした*1。個人的には「学問的なものでビジネスのボトルネックを解消する」や「学問的なものでビジネス…

MMM (Media/Marketing Mix Modeling)を回すなら、まずGeorge E. P. Boxの格言を思い出そう

「最後の統計学界の大御所」の一人で、2013年に亡くなったGeorge E. P. Box*1が残した格言 "All models are wrong; but some are useful"(全てのモデルは間違っている、だが中には役立つものもある)ですが、このブログでは過去に何度も紹介しているのでお…

10年経ってもついに消えずに残った、データサイエンティストという職業

このブログでも何度か引用しているこちらの記事で、「データサイエンティストという職業は10年以内に消える」という趣旨の議論がされていたのがちょうど10年前の2013年でした。ちなみにこの記事はついているブックマーク数に比して当時は結構注目を集めたと…

NN研究における再現性にまつわるエトセトラ

先日、ふとしたきっかけでしましま先生*1がこちらの論文について触れられているのを見かけたのでした。これは推薦システム分野におけるNN研究の再現性について検証した2019年の論文で、近年のトップ会議*2に採択されたNN手法18個に対して再現を試みたところ…

エンジニア・データ分析職の方々にお薦めしたい、LLM時代に不可欠な教養が身に付くテキスト3選

(『IT Text 自然語処理の基礎』より)3ヶ月ほど前に空前のLLMブームについて概観する記事を書きましたが、それ以降も世間のLLMに対する狂騒ぶりは収まるどころかますます拍車がかかるという有様で、あまつさえ僕自身の仕事における日常業務にもじわじわと影…

グアムに行ってきました

Hafa Adai!!*1 6月中旬、夏至のちょっと前にグアムに行ってきました。コロナ禍以降これまで全く海外に行っておらず、また昨年5月にDVT(深部静脈血栓症)に罹ってから*2は飛行機にすら乗っていなかったので、その両方を今回ようやく解禁したという次第です。…

シュートを外した後で、ゴールポストを動かして「入っていた」ということにしてはいけない

先日こんなことをコメントしたら、思ったよりも反応が多くて「皆さん同じことを思っていたのかな」と感じたのでした。シュートを外した後でゴールポストを動かして入ったことにするのはダメですよ / 「当初は有意差が認められなかったが、毛乳頭細胞が少ない…

LLMにデータ分析をさせてみる:テーブルデータの概要解釈

先日こんな記事を書いたのでした。はてブも400近くに達しており、良くも悪くもバズったようです。で、この記事の中で言いたかったことは幾つかあるのですが、その一つに「文書・テキスト要約など『そもそもLLMというかLM自体が得意な仕事』をさせると便利な…

マーケティングデータ分析で成果を挙げるには「統計分析(MMMなど)+A/Bテスト」のコンビネーションが有用

既に記事タイトルが雄弁に物語っていますが、「マーケティング分野におけるデータ分析でいかにして成果を挙げるか」というのはある意味永遠の課題であると言えると思います。誇張でも何でもなく、この地球上の全てのマーケティングに関わるデータ分析組織で…

ChatGPTに書かせた基礎統計学の教科書を公開しました

ChatGPT以下各種LLM chatbotが創り出すコンテンツが何かと話題を呼ぶ昨今ですが、僕もその世間の潮流に沿って試してみたことがあります。それが「統計学の教科書の自動執筆」です。 ということで、実際にChatGPTを使って基礎統計学の教科書を書いてみました…

LLM chatbotが人類にもたらすのは、絶望なのか希望なのか

ちょっと前に以下のようなことを放言したら、思いの外反響が多くてちょっとびっくりしたのでした。それだけ、現代のLLM chatbot / generative AIの台頭に期待と不安を抱いている人が多いということの裏返しなのでしょう。既に色々コメントが出ているけど、我…

データ分析部門にビジネス上のレゾンデートルを与えるということ

3月にばんくしさんとイベントでご一緒したり個人的に話をする機会*1があったんですが、その際に何度も話題にされていたのが「エンジニア部門やAI部門にビジネス上のレゾンデートル(存在意義)をどう与えるか」というテーマでした。これについては実際にご本…

2023年版:実務データ分析を手掛けるデータサイエンティスト向け推薦書籍リスト(初級6冊+中級8冊+テーマ別15冊)

(Image by wal_172619 from Pixabay)去年で恒例の推薦書籍リストの更新は一旦終了したつもりだったんですが、記事を公開して以降に「これは新たにリスト入りさせないわけにはいかない!」という書籍が幾つも現れる事態になりましたので、前言撤回して今年も…

K-meansのクラスタ数を決めるのにエルボー法を使うのはやめよう、という論文

クラスタリングに用いられるK-meansのクラスタ数決定方法については長く議論されてきた歴史があり、このブログでも以前ちょろっと取り上げたことがあります。で、Twitterを眺めていたらタイムラインに面白い論文が流れてきました。それがこちらです。タイト…

難局を乗り越えた先に見えるもの

(Stable Diffusion 2.1でこの記事のタイトルをプロンプトとして与えて生成した画像)時が経つのは早いもので、あっという間に今年2022年も恒例の年末振り返り記事の時期が来てしまいました。ということで、例年通り何のオチも学びも技術的内容もない記事で…

「データ分析の民主化」の在り方を、「社員全員Excel経営」が「社員全員データサイエンス経営」へと進化していった事例に見る

以前こんな記事を書いたことがあります。「社員全員Excel経営」で名高い、ワークマン社のサクセスストーリーを論評したものです。2012年にCIOに就任した土屋哲雄常務のリーダーシップのもと、取引データの完全電子化を皮切りに「全社員がExcelを使いこなして…

『標準ベイズ統計学』はベイズ統計学をきちんと基礎から日本語で学びたいという人にとって必携の一冊

標準 ベイズ統計学朝倉書店Amazon発刊当時に話題になっていた『標準ベイズ統計学』。実は訳者のお一人、菅澤翔之助さんからオフィス宛てでご恵贈いただいていたのですが、親父の没後処理やら自分のDVTやら実家の片付けやらで全く手が回らずオフィスに置いた…

データサイエンティストという職業の10年間の変遷を振り返る

(Image by Gordon Johnson from Pixabay)TL;DR 今年の6月に僕自身がデータサイエンティストに転じて10年という節目の年を迎え、10月でDavenportの「データサイエンティストは21世紀で最もセクシーな職業である」HBR総説から10周年になるのを機に、この10年間…

Lightweight MMM:NumPyroで実装されたベイジアンMMMフレームワーク

以前「Ads carryover & shape effects付きのMedia Mix Modeling」という記事で取り上げたベイジアンMMMのtechnical report (Jin et al., 2017)ですが、当時RStanで実装されていたものが4年の時を経て時代の趨勢に沿う形でPythonベースのOSSとしてリリースさ…

VARモデル補遺(備忘録)

もう9年も前のことですが、沖本本をベースとした計量時系列分析のシリーズ記事を書いていたことがあります。その中で、密かに今でも自分が読み返すことがあるのがVAR(ベクトル自己回帰)モデル関連の記事です。 なのですが、仕事なり趣味なりでVARモデルを…

新型コロナウイルス感染症の「真の」感染拡大状況を検索トレンドから何となく推測してみた

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに収まる気配が全く見られず、この記事を書いている2022年8月9日時点でも日本はオミクロン系統BA.5変異株を主体とする第七波に見舞われている有様です。東京でも毎日のように2万〜3万人という新規陽性者数…