渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「六本木で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木→渋谷駅前

Googleに入社した時のこと

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東京オフィスのsoftware engineer (SWE)部門のsite leadのRyoichiさんがTwitter上でこんなことを呼びかけたところ*1GoogleSWE採用に関して多くの同僚から色々な記事やコメントが集まったようです。


僕はSWEではなく下記のような経緯があってglobal business organization(GBO: つまりビジネス部門)側に入ったので、僕の体験談を書いても「Googleに入社したい」というエンジニア系の人たちの参考にはならないかもしれませんが、ビジネス系の人たちの参考にはなるかもしれません。一人のデータサイエンティストとしてこんな経緯を辿ってGoogleに入ったのだという一つの例としてお読みいただければ幸いです。


そもそも何故Googleに応募したのか


Googleに応募した経緯は以前の回顧録でもちょろっと書きました。

端的に言えば、割と早い頃からGoogleという会社自体に強い興味があったというのが大きいです。また、下記で登場しますが前々職時代にチームの部下だったスイス人の同僚が、先立つこと2013年にGoogle東京オフィスのデータサイエンティスト(Quantitative Analyst)として入社していたので、彼の後を追いかけて同じ仕事をしてみたいと思ったというのもありました。


Googleに応募するに当たって準備したことなど


正直に言うと、特別に準備したことは何もありません。そもそもTOEIC以下各種英語能力検定試験の類は生まれてこのかた一度も受けたことがなく、下記の通りSWE側ではなくGBO側を受けたのでコーディングの素養も明示的には問われませんでした。なので、どちらかというとそれまでの3年半ぐらいの間に積み重ねてきた、マーケティング(特にデジタルマーケティング)領域におけるデータサイエンティストとしての実務経験そのものが、Googleに応募する上での準備になったようなものだと思います。


実際、後述するインタビューにおいて技術的なポイントやマーケティングに関するポイントを質問されて、返答に詰まったことは一度もありませんでした。むしろ「そういうデータが手に入るのならばこういう分析をするべきです」「こういう分析手法を用いればもっと意味ある知見が得られますよ」という提案をしたことすらあります。


ただし、GBO側に行くということなのである程度頭の中で「これこれの統計学機械学習の概念をビジネス系のマネージャーにどう伝えるべきか」というシナリオのようなものはインタビューの中で常に考えていました。例えばいきなりロジスティック回帰と言ってしまわずに「重回帰分析をYes / Noの二値分類に拡張したモデル」というように。もしくはもっと噛み砕いて「Yes / Noの2つのラベルに自動的に分けるモデルでどんな変数が重要かが後からでも分かるような代物」というように。


そしてもう一つ。英語ですが、GoogleではTOEIC以下各種英語能力検定試験の類のスコアは何も聞かれません。が、複数回あるインタビューの中には何度か英語ネイティブとの面接が入ることがありますし、そもそもリクルーターが英語でしか対応しないこともままあるので*2、その際に何も受け答えできなければそこで試合終了となりかねません*3。なので、最低でも「自分が受けるポジションに関連する話題なら英語で何とか質疑応答できる」ぐらいの英会話力はあった方が良いです。僕の場合は、英語が公用語だった理研BSI時代に5年間我流独学ながらある程度英会話については鍛えてあったので、その感覚さえ思い出せれば大丈夫という状況でした。


Googleに応募する前にチェックしておくと良い資料


ところで、これだと何の参考にもならないと思いますので、僕が入社した後になってから「これはGoogleを受ける前に読んでおくべきだった」と思った資料をいくつか挙げておきます。

ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える

ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える

色々なところでお薦めしているのがこれ。当時HR担当SVPだったLaszloさんが書いたあまりにも有名な本です。内容については創業者のLarry & SergeyそしてEricも承認しているという、Googleの人事戦略に関する事実上の公式ガイドブックであり、2015年時点での情報に限られますが採用プロセスについても詳しく書かれています。Googleを受けてみたい!という方にはぜひご一読を薦めます。



これはGoogle公式の求人サイトに載っているガイドです。かなり細かくインタビュー含めた採用プロセスについて書かれているのと、当然ながらこちらの方が最新に近い情報を載せているので、むしろこちらこそが必読です。


上記2つの資料を読めば載っていますが、原則としてGoogleの採用プロセスは以下のフェーズを辿ります。初めて見る人には意外に映るかもしれませんが、どこの国での採用であってもマウンテンビュー本社が必ず関わる仕組みです。

書類審査 → リクルーターによる電話インタビュー → インタビュアーによる対面インタビュー → hiring committeeによる審査 → 上級幹部(SVP以上)複数による最終審査 → 内定

"Work Rules!"に載っているように「上級幹部による最終審査」にはCEO、つまり今だとSundar(以前はLarry)も関わることがあり、本書によれば少なくともLarryの頃は必ず全員の選考資料に目を通していたそうです*4。また上級幹部レベルで「差し戻し」*5が起きることもあると書かれています。



Googleでは原則として全世界で共通の採用プロセス及び「構造化インタビュー」を用いているので、インタビューで聞かれることも基本的にはどこの国のオフィスでも同じです。このre:WorkはGoogleがその人事戦略・管理において蓄積してきたノウハウを社外に向けて発信しているサイトで、そこにはこう書かれています。

Here are Google's four attributes:

  1. General cognitive ability. Google wants smart people who can learn and adapt to new situations. This is about understanding how candidates solve hard problems in real life and how they learn, not about GPAs or SAT scores.
  2. Leadership. Google looks for a particular type of leadership called “emergent leadership.” This is a form of leadership that ignores formal designations. At Google, different team members will need to step into leadership roles, contribute, and — just as importantly — step back once the need for their specific skills has passed.
  3. Googleyness. Google wants to make sure the candidate could thrive at Google, and looks for signs of comfort with ambiguity, bias to action, and a collaborative nature.
  4. Role-related knowledge. Google wants to make sure that the candidate has the experience, background, and skills that will set them up for success.

"Work Rules!"にも書かれていますが、概ね1つのインタビューで上記4項目のうち1つもしくは2つの項目を「構造化インタビュー」を通じて審査するので、大体において4回ぐらいインタビューを行うことになります。もちろんインタビュー回数の個人差は相応にあります。


実際に自分がGoogleに採用されるまでに体験したプロセス


実は諸事情あって書けることはあまりない上に、特にインタビューの詳細については基本的には書けないことだらけです。なので詳細については上記資料をご覧いただくか、"How we hire"のFAQをお読みいただいた方が良いでしょう。ここでは多分書いても大丈夫そうな範囲として、自分が採用プロセスにおいて経験したことの中から以下のポイントだけ挙げておきます。

  1. いわゆるリファラルを受けていない
  2. 本当はSWE側に応募したかったが、直前でポジションが消滅してしまったのでGBO側に応募した
  3. 最初に受けたポジションと実際に採用審査を受けたポジションとは異なる
  4. 英語ネイティブによる英会話力チェックの面接があった
  5. 採用プロセスの最後でさらにポジションが変更されて最終的にData Scientistとして採用された

以下可能な範囲で詳細に書いてみます。ちなみに一応弊社HR / PRにも確認を取ってはありますが、もしかしたら僕の記憶違いのところもあるかもしれませんのでその点悪しからずご了承ください。

いわゆるリファラルを受けていない


まず、僕はリファラル(紹介)を受けていません。上記のような経緯があって、まだ前々職にいた2013年の春頃に僕は応募サイトから一度直接応募してみたのですが、物の見事に2年間音沙汰なし。ところが2015年の2月になって突然リクルーターから「まだ道玄坂の会社にいるのか?興味があるので話を聞かせてくれ」というemailが来て、早速電話インタビューを受けることになったのでした。


色々なメディアで報じられているように、Googleリファラル採用を積極的に行なっている上にリファラルがある方がない場合よりも採用率が何倍も高くなると言われているのですが、下記のような理由で結局僕はリファラルなしで採用選考を受けることになったのでした。

本当はSWE側に応募したかったが、直前でポジションが消滅してしまったのでビジネス側に応募した


次に、前述の元部下のスイス人からの「早くGoogleに来て俺の上司になってくれよ」という誘いもあったので、僕は本当はSWE側のデータサイエンティストのポジションを受けるつもりだったのですが、いざ2015年の春に正式応募しようとしたところ彼から言われたのは「ごめん、うちのチームの都合で全員マウンテンビューに引き上げることになった」。つまり東京のSWE側のデータサイエンティストのポジションが無くなってしまったのでした。しかも「多分しばらく東京のこのポジションは復活しない」との見込みつき。それ故彼からは「正直言って他のポジションはよく分からないから薦めづらいし、他のポジションに行きたいのならリファラルは遠慮させてくれ」と言われ、困ってしまいました。


けれども、既に当時の仕事に飽きてきていて移る気満々だった当時の僕としては、それでもGoogleを受けてみたいということでリクルーターに相談したのでした。そこで言われたことが「GBO側のビジネス部門にならアナリストのポジションがあるよ」。いわゆるビジネスアナリスト的な職だとのことで、正直なところかなり迷ったのですがそれでもやっぱり一度はGoogleに勤めてみたいと思い、ビジネス部門でも良いので正式応募したいとリクルーターに伝えたのでした。

最初に受けたポジションと実際に採用審査を受けたポジションとは異なる


で、最初に紹介されたポジションはAPAC地域全体を管轄するあるビジネス部門のアナリスト。インタビュアーは東京オフィスのチームを率いる(多分)ドイツ人氏。一通りインタビューを受けた後でリクルーターから返ってきたコメントは「APAC地域のグローバル企業の担当者と直接話すには英語に難がある(ので不採用)」。ところがそれに続いて「だが英語以外はperfectだ」との評価。そこで「何なら日本を管轄するある業界担当チームのアナリストに当たるIndustry Analystを受けてみるか?」とリクルーターから聞かれたので、そうしましょうということで途中で応募するポジションをそちらに変更したのでした。


あとは基本的には東京オフィスの日本出身メンバーと日本語でインタビュー(ただし1回だけシドニーの英語話者の人とのリモートでのインタビューが入った)。re:Workに書かれたようなことを4回に分けてインタビューで聞かれ、基本的には自分が考えた通りに、思った通りに答えただけです。アナリストのポジションの話なので、全体としては「こういうビジネス上の課題がある一方でこういうデータが手に入るが貴方ならどういうアプローチを取るか」もしくは「これこれのビジネス上の課題を解決するために貴方ならどのようなデータを取れば良いと思うか」みたいな質問が多かったです。他にはいわゆるcultural fit系の質問が結構あったのが印象的でした。


GBO側のインタビューは、SWE側とは異なりコーディングスキルを明示的にはチェックしません。その代わり、より細かく実際に直面し得るビジネス課題へのかなり具体的な解決策を問われるケースが大部分を占めていたように思います。もっとも、コーディングが苦手でむしろ「社会実装」に重きを置くのが常の自分にとっては、その方がずっと楽でした。先述のように、何を聞かれても特に苦もなく答えられたと記憶しています。

英語ネイティブによる英会話力チェックの面接があった


なのですが、4回目のインタビューが終わってからの待ち時間がとにかく長い。結局1ヶ月半ぐらい待たされたある日、突然リクルーターから電話があって「申し訳ないがもう1回だけインタビューを受けて欲しい」とのこと。何をチェックするインタビューですかと聞いたら、ズバリ「英会話力(English proficiency)」と言われて顔面蒼白に。。。一度は「英語は失格」と言われているわけですから、これほど恐ろしい話もありません。取るものも取り敢えず、YouTubeの非英語話者向けレッスン動画を3日間朝から晩まで見続けて、かつて毎日英語で会話していた理研BSI時代の感覚を取り戻すべく奮闘することに。

最後のインタビューで出てきたのは、東京オフィスのグローバル側のビジネスオペレーションを担当するUS出身のディレクター氏。流石に事前に耳を慣らしてきただけあって、理研BSI時代と同じくらいには聞けて話せたと思います。とは言え、これもGBO側の普通のインタビュープロセスの一部を兼ねるのでマーケティングにおけるデータ分析の有用性やよくあるビジネス課題に対するデータ分析を用いた解決策などについても英語で口頭で答える必要があり、それはそれは緊張しながらやり取りしていたのを覚えています。

採用プロセスの最後でさらにポジションが変更されて最終的にData Scientistとして採用された


それから数日後、リクルーターから電話があって「オファーを出します」とのこと。そしてemailでやってきたオファーレター*6を見たら、何と。僕の肩書きはこれまで聞かされていたIndustry Analystではなく、"Data Scientist"となっていた上に、hiring managerが予定されていたマネージャー氏の一つ上のディレクター氏に変わっていたのでした*7


実を言うと、これは今でも僕にとっては何が裏で起きていたのかは謎なまま*8です。。。一つだけ言えることは「選考プロセスの最初のうちはIndustry Analystとして審査をされていたが、どこかの時点でこれがData Scientistの選考に切り替わったらしい」ということ。これもまた僕にとっては大きな驚きであり、Googleという会社の面白さが垣間見えたエピソードでした。


最終的にオファーレターを受け取って、サインしたのが2015年の10月半ば。リクルーターから最初の電話を受けたのが2月頃の話だったので、8ヶ月かかったことになります。受けたインタビューの回数は6回で、新入社員研修の時に周囲に聞いてみたら多い部類に入るとのことでした*9。以前の回顧録でも書いたように、入社したのは2016年の1月です。その後の仕事ぶりについては弊社メディアで公開されているものもありますので、そちらをご覧ください*10


余談


時々巷に流れる話題として「日本企業は『なぜ弊社を志望したのか』などというくだらない質問を面接でするが外資企業はそんなことはしない」というのがありますが、何のことはなくてGoogleでもこれは聞かれます。今でも覚えているのが、6回目のUS出身のディレクター氏との英語面接の席上でそれを聞かれた時のこと。確か"Why do you want to join Google?"みたいに問われたので、"Because it's Google"と答えたらニヤリとされたのを思い出します(笑)。


待遇ですが、上記のRyoichiさんの呼びかけに応じて色々な記事やコメントが出ていますので、僕からは特に開示やコメントはしません(笑)。年恰好と経験年数とポジションを合わせて考えれば、大体こんなものだろうというところになるかと思います*11。内訳もcashとrestricted stock unitsとに分かれている上にSWE側とビジネス側とでも若干給与体系が異なり、さらには個人差がかなりあるので一概には言えない部分もあります。もっとも、日本国内に限って見ればかなり高い水準にあることは間違いないと思います。


一方で、Googleに入社してから色々な同僚と親しくなり、彼らと話をしたりチームを組んで仕事したり時には一緒に飲んだりするようになった結果思うのは、この会社は何よりもまず社員の "Googleyness" を重んじるんだな、ということ。外資系なのにと意外に思う方もいるかもしれませんが、色々なところでcultural fitということが言われる会社なので、第一にこの人柄というかキャラクターというか人格というか考え方というか、人としての在りようみたいなことを問われるのかなと思っています。

Googleyness. Google wants to make sure the candidate could thrive at Google, and looks for signs of comfort with ambiguity, bias to action, and a collaborative nature.

これに自分は当てはまる!と思う方にとっては、Googleは応募する価値のある会社だと思います。願わくば「待遇が良いから」というだけでなく、「仕事内容が面白そうだから」「会社のビジョンや文化に共感できるから」「会社の雰囲気が楽しそうだから」という理由で応募してくださる方が、そして我々と一緒に働いてくれる方が増えてくださると嬉しいです。


またSWE側に限らず、GBO側にも僕を含めてPhD持ちの社員が東京オフィスに何人もおります*12。PhD持ちで日本のデジタルマーケティングを変革していくことに興味があるという方には、エンジニア部門は勿論のこと、ビジネス部門への応募もぜひご検討いただければ有難いです。


Google JapanではSWEに加えてGBOの社員も随時募集しておりますので、この記事を読んで興味を持たれた皆さま、ぜひぜひご応募ください。お待ちしております。

*1:発端が誰かは見なかったことにしてください笑

*2:シンガポールからインタビュー日程変更の連絡の国際電話がかかってきていきなり英語でまくし立てられ、一瞬対応に窮したこともある

*3:実際いきなり試合終了になったという人を何人か知っている

*4:LarryがそうだったならSundarも必ず目を通してそうな気がしますが、実際のところは分かりません

*5:具体的にはインタビューの追加など

*6:電子署名が可能なタイプのもの

*7:言い換えると複数業界をまたぐポジションに変わっていた

*8:肝心の本人すら詳細な経緯の全容については正確には何も聞かされていないので

*9:ただし中には11回も受けた人がシンガポール採用組にいたので、上には上がいる

*10:自分の名前がクレジットされているものだけ挙げると 1. https://bit.ly/2rdQEFi 2. https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/articles/emerging-technology/ml_creative/ 3. https://youtu.be/PARsDyRJMWE 4. https://youtu.be/jN_pRE0P1GU ビジネス部門の所属ながら自分でコードを書いて実装しているものも幾つかあります。また他にも自分のチームで開発したツール・システムを援用した他チームによる成果で公開されているものが複数あります

*11:というかググるとそれっぽい情報が出てくることもあるので

*12:グローバルで見れば結構な人数がいます