渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

元祖「六本木で働くデータサイエンティスト」です / 道玄坂→銀座→東京→六本木→渋谷駅前

Googleに勤めて10年が経ちました

光陰矢の如しとは良く言ったもので、今日でGoogleに入社して10年が経ちました。それまでは研究者時代まで含めても5年以上同じところに勤めたことがなかった上に、Googleに入ってからも「5年もいられたら御の字」と思っていたことを考えると、随分と遠いところまでやって来たなぁというのが偽らざる感想です。ということで、主に公開済みの記事・資料類を引きながら、この10年間やってきたことを差し支えない範囲で振り返ってみようと思います。

入社に至るまでの顛末



僕がGoogleに入った経緯については、6年前に超長文の回顧録と体験記をそれぞれ書いているので、そちらをお読みいただければと思います。ちなみに、Gemini 3 Proに回顧録を要約させてみたところ、

認知神経科学ポスドクだった著者は、研究体制改革・若手待遇改善を訴える政治活動が災いして職を追われた挙句業界からも事実上干され、30代半ばにして研究者としてのキャリアを断念せざるを得なくなった。

失意の底で未経験ながら民間企業へ転職し、データサイエンティストとして必死に統計学機械学習を学び直す中で、実務的なデータ分析が自身の適性に合っていることに気づき成果を上げていく。

その後、憧れだったGoogleへの入社を果たし、その入社研修でかつてキャリアの終焉を迎えた因縁の地であるシンガポールを再訪したことで、過去の挫折を乗り越えたことを実感するに至った。

この記事は、研究者崩れと自嘲する著者が、転身後の懸命な努力と妻や恩人の支えによって復活を果たした、「敗者復活」の軌跡と感謝の念を綴った回顧録である。

とのこと。そうか、自分の人生とキャリアは「敗者復活」そのものだったんだな……と今更ながら思った次第です。


統計学機械学習・データサイエンスによる各種広告改善の自動化推進 (2016-20)


入社して最初の4年は、まだ広告プロダクト側でも自動化が進んでいなかった領域に様々な自動化ソリューション・システムを作って持ち込むということをメインに手掛けていました。



その中でも一番広く普及したものは、成功事例として弊社公式チャンネルのYouTube動画にもなっています。その後のプロダクト側の進歩で2020年にこのソリューションはsunsetとなっていますが*1、英語版も作ったことにより日本のみならずUSやシンガポールさらにはインドでもかなり使ってもらえたとのことで、おかげさまで僕にとっては名刺代わりの事例となっています。


これ、元々は広告営業本部の親しい同僚から「お客さんからこんな相談が来ているんだけどTJOさんの力で何とか出来ないかなぁ」と言って持ち込まれた内容が、「こんなの機械学習とか使えば秒で解決するじゃん」ということでその場で簡単なプロトタイプを書いて回して見せたら、周囲から「これ皆で使えるようにしたら便利では!?」と勧められて、広告技術本部の人たちの協力を得てソリューション化に漕ぎつけたものなんですね。なお、この時最初に僕が書いたグチャグチャなコードをまともに動くように全面的に書き直してくれたのが、Google検索オフィスアワーでご活躍の@piropiroannaさんです。Thank you so much for the great contribution!


なお、他にもNN + embeddingを駆使したソリューションも手掛けたりしたんですが*2、こちらは当時開発進行中のプロダクトと路線が被ったため、本格的なグローバル展開には至らずじまいでした。ただ、そのアイデアそのものの一部は当該プロダクトでも採用されたそうで、微力ながら貢献できたのかなと思っています。


機械学習リテラシー・AutoML技術の啓発活動 (2017-21)


これは本来であれば僕の職掌とは関係ないのですが、入社してすぐぐらいの頃からDeveloper Advocateの@kazunori_279さんと懇意にさせていただいており、その縁で何度かイベント登壇する機会がありました。


目ぼしいところでいうと、2017年のGoogle Cloud Next TokyoではKazさんと共同で機械学習リテラシーに関する公演テーマで登壇しています。何年か前まではこの時の講演録画がYouTubeで見られたので*3、ご覧になったことのある方もいらっしゃるかと思います。


他にも、2019年7月のGoogle ML Summit TokyoではAutoML技術の啓発というテーマでKazさんと共同で登壇しています。まだ生成AIが勃興する前の牧歌的な時代ながらも、機械学習技術の浸透に期待をかける技術者の方々からの大きな熱量が感じられたイベントだったと記憶しています。


ちなみにコロナ禍真っ只中の2020年6月のGoogle Cloud Day: DigitalでもKazさんと共同で登壇しておりまして、この時はブログ記事でも詳説した「MLデザイン」という「機械学習を正しく機能させるために必要なモデル外のあれこれ」*4についてお話しています。その内容は上記公式ブログの記事からお読みいただけますので、興味がおありの方はご一読いただければ幸いです。


マーケティング計量分析による広告マーケティング戦略立案支援 (2020-)


そして最後は、僕の本来の職掌の話です。近年、コロナ禍を境にして広告マーケティングは「戦術」レベルではだいぶ自動化が進むようになった一方で、「戦略」レベルは依然としてKKD*5がまかり通るという業界が多く、そこにevidence-basedでdata-drivenな意思決定を持ち込もうという動きが徐々に強まってきており、僕の現在の仕事もその多くがそこに充てられるようになっています。そして課題の性質上、必然的にeconometricな分析を行うケースが多いです。


その筆頭に挙がるのがMMM (Media/Marketing Mix Modeling)*6です。実は僕の手元では2017年ぐらいから細々とやってはいたものの、2020年に入ってから俄かに広告マーケティング業界で注目が集まるようになり、2023年以降はすっかり僕のメイン業務の一つとなっています。


生憎と、MMM関係の個々の仕事内容は機密性が高いものが多くなかなか外には出せないものばかりなので、参考までに僕が明示的に監修に加わったMMMガイドブック事例へのリンクを貼っておきます。他にも、Google Marketing LiveやAdvertising Week Asiaなどで発表された事例の中には僕が手掛けたMMMや計量時系列分析が関わっているものがあったりします。


もう一つ、コロナ禍以降に僕が手掛けたマーケティング分析事例として「生活者インサイト」があります。これはGoogleトレンド*7のデータを集約分析することで、その時々の社会全体の検索動向を捉え、広告やマーケティングの参考材料として広く提供しようという試みです。


メディアでも紹介されたものとしては、ちょうどコロナ禍で1回目の緊急事態宣言が発令された前後に一連のシリーズ記事として公開された、「新型コロナウイルスに関連する検索動向」があります*8。これはオフィスが閉鎖される直前にたまたま担当者氏とばったりオフィスで出会って立ち話をした際に、「こんな記事があったらコロナ禍で先の見通しが立たないとお悩みの広告主の皆様の何かのお役に立てるかも」という話になり、企画化されたものです。


コロナ禍が沈静化して以降は、弊社年末恒例のYear in Searchのマーケティング版として年始に前年の検索動向を振り返る企画に模様替えされ、一昨年度版まで公開されています。様々な事情があり昨年度版の企画は見送られましたが、この企画は個人的にも取り組んでいて楽しいので、また復活する日が来たら改めて取り組めればと願っています。


ちなみに、Gemini周りについては色々と関わっていることもあるのですが、現在進行形のものが多いのでここでは言及は控えます。いずれまとまって外に出せるものが出てきたら、その時に改めてご紹介できればと思います。


余談:各国オフィス訪問歴


グローバル企業に勤める醍醐味の一つに「各国オフィスの訪問」がありまして、社内には50ヶ国以上回ったとかいう猛者もいたりしますが*9、僕はあまり海外出張する機会がないので4ヶ国しか行ったことがないです。


とりあえず行ったことがあるのはシンガポール(2ヶ所)*10・ロンドン(2ヶ所)*11・マウンテンビュー*12・ベニス(米LA)・ソウルで、噂ではNYCのオフィスの構造が面白いとかパリのオフィスの社食が美味しいとか聞くものの未見で、正直物足りない限りです。血栓症との付き合い方にも慣れてきたので、今後はもうちょっと各国オフィスを訪問しに行っても良いのかなと思っています。そのためにもグローバル周りの調整の仕事とか、そろそろ買って出ますかね……。


感慨など


そんなわけであっという間に10周年を迎えてしまったので、うかうかしていると一瞬で20周年が来てしまいそうだな……と戦々恐々としている今日この頃です。「うかうか三十きょろきょろ四十」という諺がありますが、かつて「11年遅れでやってきた新入社員」だった僕にとっては「うかうか四十きょろきょろ五十」なのかもしれませんね(汗)。


これは以前にも書いた話ですが、完全なる偶然からproducts (eng)側ではなくads sales側のdata scientist (analytical consultant)というjob ladderに入ったことで、結果的に「productsとsalesの間に広がる広大な未開拓地」のど真ん中に陣取って、色々と好き放題やれる*13立場にあり付けて良かったのかなと思っています。その立場の有難みに感謝しつつ、これからも好き放題暴れ続けていく所存です。


それにしても、色々な意味でGoogleという会社もこの10年で非常に大きく変わったなというのが正直な実感です。僕が入社した当時はまだスタートアップの雰囲気を色濃く残す会社でしたが*14、今や株式の配当まで出すほどの大企業になりました。そして、仮に20周年まで居続けたら、この会社がもっともっと大きく変わっていくのを目の当たりにすることになるのでしょう。そんな先のことは今のところ全く想像すらつきませんが、その時は「貴重な瞬間に目撃者として立ち会えることの幸運」に感謝できればと思っています。

*1:その前にMTVから当該プロダクトのPMがわざわざ来日してヒアリングしていったということもあった

*2:この時は珍しく自分でもある程度ソリューション側で動かすコードも書いた

*3:現在は公開終了

*4:ML design: 機械学習を確かならしめる「メタ」な枠組み - 渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

*5:「勘と経験と度胸」という古き懐かしきミームですね

*6:MMMのはなし - 渋谷駅前で働くデータサイエンティストのブログ

*7:正確には異なりますが詳細は伏せます

*8:オリジナル記事は公開終了

*9:社内サイトにはこの手の「個々の社員の履歴を共通データベースから引っ張ってきて勝手にランキングをつけたり表彰したりする」サービスが文字通り掃いて捨てるほどあります

*10:移転前のダウンタウンのオフィスと移転後の大規模オフィス

*11:大英博物館近くのセールスオフィスとDeepMind本部のオフィス

*12:2017年にHalに会いに行ってきました

*13:良くも悪くも「(守備範囲外なので)文句を言ってくる人がいない」ということ

*14:マウンテンビューまで行けば気軽にSergeyやLarryやSundarの尊顔を拝むことが出来た